コロナ禍の影響もあって、長らく続いてきた売り手市場が買い手市場の様相を見せています。ただし、この買い手市場は長くは続かず、いずれ売り手市場に戻るのは時間の問題と予想されます。
現在のところIT業界のエンジニア単金に大きな変動(単金低下)が起きていますが、しかし、それでもなおITエンジニアが不足しているのは変わりありません。
今回の記事では、ITエンジニアが慢性的に不足している具体的な理由を中心に解説します。
IT業界における人材需要の現状と予測
2019年の経済産業省の調査によると、2018年時点でのIT人材は約103万人。しかし、実際のIT人材の需要と比較すると22万人の人材が不足しているという試算結果が出ています。
今後10年間にわたるIT需要の伸びと照らし合わせて予測したとき、需要の伸びが低位だったとしても最大16万人の人手不足が続くと予想されるほか、中位の場合は最大で45万人、高位の場合は79万人ものIT人材が不足すると予想しています。
もちろん、この数値はあくまでも予測値であり、生産性や景気の動向などさまざまな要因によって左右されるケースは十分考えられます。
しかし、現時点においても実際に22万人もの人材が不足しているという調査結果が出ている以上、IT業界における慢性的な人手不足は今後も続いていく可能性が非常に高いことは明らかといえるのです。
ITエンジニアが不足する理由
成長が著しいIT業界において、なぜここまで人材不足が続くと予想されているのでしょうか。そこにはいくつかの要因が考えられます
ITエンジニアの高年齢化
同じく経済産業省の調査結果のなかで、2015年時点でのITエンジニアの平均年齢は39.5歳でした。しかし、その後2025年をピークに40.4歳まで平均年齢は上昇すると予想されており、それにともなってITエンジニアを退く労働者も増加してきます。
新たにIT人材を目指す若手人材も増加してくるものの、全体的に見ると業界としては同じか現状以下の労働人口になってしまうと懸念されています。
IT分野の成長とニーズの増加
一口にITエンジニアといってもさまざまな分野があります。たとえばスマートフォン向けのアプリケーション開発を担うエンジニアは、インターネットが登場したばかりの頃にはなかった人材需要といえるでしょう。
IoTやAIなどの発達により、これまで一般的な需要はそれほど高くなかった分野のITエンジニアも急速に拡大していくと考えられます。
たとえばAIに欠かせないPython、AR/VRの開発にはUnityなど、新たなテクノロジーに対応できるプログラミング言語に強いエンジニアが求められるようになるでしょう。
労働環境
ITエンジニアと聞くと最先端で時代を担っているというポジティブなイメージだけではなく、長時間労働など過酷な労働環境を連想する人も少なくありません。
特に昨今、働き方改革が叫ばれるようになり、労働者の多くも過重労働を強いられる「ブラック企業」への転職は避ける傾向にあります。現在は労働環境が改善されていたとしても、一度染み付いたイメージを払拭できるのは簡単なことではありません。
また、自社の労働環境は良くても、同業他社で未だに過酷な労働環境を強いているところがあれば、業界全体として負のイメージが拭いきれずに求人が集まらないという結果を招くこともあります。
ITエンジニアとして生き残るために
人材不足が続くITエンジニア業界ですが、「いずれ売り手市場に戻るのであれば未経験でも簡単に転職できるのでは?」と考える人も多いことでしょう。
たしかにそのような企業も出てくると思われますが、その逆も考えられます。すなわち、人手不足であるがゆえに新人教育に費やす時間も担当者も確保できず、即戦力の募集に限定されてしまうというケースです。
コロナ禍の後押しもあって、ほとんどの企業が「ジョブ型雇用」へと契約方針を転換しています。
そのため、まったくの未経験から会社に入り、会社から教育を受けてスキルアップを目指すというシナリオは必ずしも良い方法とはいえません。
最低限のプログラミングスキルや実務経験を積み上げたうえで、各企業に対して自分自身を売り込んでいくのが現実的な方法といえるでしょう。
また、これからエンジニアとして本格的に活躍していくためには、誰かに教わるという姿勢ではなく、自分自身で課題を見つけて解決していく姿勢も問われてきます。
特にAIやIoTなど新しい分野であればあるほど、社内に実務経験が豊富な先輩や上司の存在がなかったり、極端に少ないケースがほとんど。誰かに答えを求めるのではなく、さまざまな手段を駆使して解決の糸口を見つけられるような行動を意識しておく必要があります。
未経験からITエンジニアを目指す
未経験からITエンジニアになるためには、まず大前提として自分自身がどのような分野のITエンジニアになりたいのかを決めておきましょう。
たとえば、新たな分野で今後大きな需要が見込めるAIやIoTのエンジニアを目指すのであれば、転職サイトや転職エージェントなどを参考にしながらどのようなプログラミングスキルが求められるのか、その傾向を知っておく必要があります。
ゴールが決まったら、その分野について学べる書籍を購入して勉強したり、プログラミングスクールに通ってみるのもひとつの方法です。
転職サイトに登録されている企業のなかには「未経験歓迎」という文言が記載されているところも多いですが、入社した後に自分が希望する部署に配属されるという保証はありません。
漠然とITエンジニアになりたいというアピールをするよりも、具体的に何の仕事がしたくて、そのために何のスキルを身につけてきたのかということをアピールできれば企業側も選考しやすく、自分の希望する仕事に従事できる可能性も高くなるはずです。
とは言え、現在の経済状況ではどこの企業にしても求人には慎重にならざるおえません。
この際、企業へ頼らない「フリーランスへの道」も模索するべきでしょう。