
Linuxの現場で日常的に使われるテキストエディタといえば、VimとEmacsの二つが必ず名前に挙がります。
しかし、いざ選ぶとなると「どちらを使うべきなのか」と迷った経験はありませんか。
Vimは軽快な動作とモードによる効率的な編集が特長で、多くのサーバー環境に標準で導入されています。
一方、EmacsはLispベースで拡張性に優れ、統合開発環境としての側面を強く持っています。
両者は思想や操作体系が大きく異なり、それぞれに根強い支持者が存在します。
本記事では、それぞれの特徴や現場での使い分け方を整理し、エディタ選びに役立つ視点を提供します。
Vimの基礎知識
🟢 Vimの基礎知識
📌 Linuxで必ず触れるテキストエディタの入門から応用までを体系化
└─【Vimの基礎知識】入門から応用までを体系化した学習ロードマップ
├─ 入門編(初心者向け)
| ├─ 【Vimの基礎知識】ゼロから始めるVim入門とモード終了、コマンド基本操作
| ├─ 【Vimの基礎知識】テキスト編集の基本操作(挿入・削除・移動)
| ├─ 【Vimの基礎知識】viとvimの違い|現場で覚えるべきポイント
| ├─ 【Vimの基礎知識】VimとEmacsの違い|Linux現場で使われるエディタの選び方
| └─ 【Vimの基礎知識】主要コマンド一覧|移動・編集・検索・コピーモード切替の早見表
├─ 活用編(中級者向け)
| ├─ 【Vimの基礎知識】検索・置換・コピー・ペーストの操作まとめ
| ├─ 【Vimの基礎知識】マウス不要!カーソルを乗せたら勝ち確定|ビジュアルモード
├─ 実践編(実務で役立つ)
| ├─ 【Vimの基礎知識】Vimで複数ファイルを同時編集する方法とウィンドウ分割の基本
| ├─ 【Vimの基礎知識】外部コマンド&シェル連携でVimを超実用ツールへ進化
├─ 応用編(上級者向け)
| ├─ 【Vimの基礎知識】マクロを活用した自動編集テクニック
| ├─ 【Vimの基礎知識】正規表現を使った高度なテキスト編集
└─ 設定編(カスタマイズ)
├─【Vimの基礎知識】Vimを使いこなす基礎:.vimrcで快適な開発環境を構築する方法
└─【Vimの基礎知識】VSCodeでVimを使う方法|GUIで再現するVim操作
VimとEmacsの基本概要

VimとEmacsは、Linux環境で広く利用されている代表的なテキストエディタです。
どちらも長い歴史を持ち、多くのエンジニアに支持されています。
しかし、その思想や操作体系は大きく異なり、目的や利用シーンによって適切な選択が変わってきます。
本記事では両者の基本的な特徴を整理し、読者が自分の作業環境に合ったエディタを選べるようになることを目的としています。
効率的な作業を実現するうえで、VimとEmacsを正しく理解しておくことは大きなメリットになります。
VimとEmacsとは何か
Vimは「Vi IMproved」という名前の通り、Unix系OSに標準搭載されていたviを拡張したエディタです。
モードを切り替えて操作する独特の仕組みを持ち、慣れると最小限のキー操作で高速に編集できます。
一方、EmacsはテキストエディタでありながらLispをベースにした拡張環境を持ち、IDEやオフィスツールとしても利用可能です。
Vimが「軽快な編集操作」を軸に進化してきたのに対し、Emacsは「拡張性と統合環境」を重視してきた点が大きな違いです。
Linux現場でエディタを選ぶ意義
Linuxの現場では、サーバーにログインして設定ファイルを修正したり、ログを解析したりする機会が頻繁にあります。
そこでエディタの操作効率は作業スピードに直結します。
Vimは多くのディストリビューションに標準で搭載されているため、追加インストール不要で即利用できます。
Emacsは高度な設定やマクロを組み込むことで、複雑な編集や長時間の開発作業を快適に行えます。
どちらを選ぶかによって日々の作業効率やチームでの統一性が変わるため、現場に合ったエディタを理解して選ぶことが重要です。
現場での利用シェアの違い

LinuxやUNIXの現場においては、圧倒的にVimの利用者が多いのが実情です。
その理由は、ほとんどのディストリビューションにviまたはvimが標準搭載されているため、サーバーへSSHでログインした直後から追加設定なしで利用できる点にあります。
結果として、インフラエンジニアや運用担当者にとって事実上の標準エディタとなっています。
一方でEmacsは拡張性や統合開発環境としての魅力があるものの、導入に手間がかかり、学習コストも高いため利用者は限定的です。
開発者調査でもVimやNeovimが20%を超えるのに対し、Emacsは3〜5%程度にとどまる傾向があります。
そのため記事では、現場の即戦力としてはVimが優位である一方、環境を作り込みたい開発者にはEmacsが選ばれているというバランスを伝えることが重要です。
基本的な特徴比較
VimとEmacsはともに長い歴史を持ち、エンジニアにとって定番のテキストエディタです。
しかし両者の思想や操作体系は大きく異なり、どちらを選ぶかによって作業効率や環境構築の方向性が変わります。
ここではVimとEmacsそれぞれの特徴を整理し、さらに共通点と大きな相違点を明確にしていきます。
Vimの特徴

Vimはviを改良したエディタであり、LinuxやUNIX環境に標準で搭載されていることが多いのが強みです。
モード切り替えによる編集方式は学習に時間がかかりますが、一度習熟すれば最小限のキー操作で高速な編集が可能になります。
起動が非常に軽快で、設定ファイルやログ編集のように「すぐに開いて直す」作業で重宝されます。
またvimrcを活用することでカスタマイズ性も高く、プラグイン導入による機能拡張も可能です。
vim -R /etc/hosts
【出力例:】
"etc/hosts" [読み取り専用] 12L, 234C
このように読み取り専用で開けば、設定ファイルを誤って上書きするリスクを避けながら中身を確認できます。
Emacsの特徴

Emacsは単なるエディタを超え、Lispを基盤とした拡張環境として進化してきました。
コード編集に加え、メール、カレンダー、ファイルブラウザなど多機能を統合できるのが特長です。
起動はVimに比べると重いものの、長時間の開発作業に耐えうる利便性を持ちます。さらに設定を通じて徹底的に自分仕様に作り込めるため、使い込むほど開発効率が向上します。
emacs test.txt
【出力例:】
GNU Emacs 29.4 (build ...) test.txt -- Fundamental mode
ファイルを開くと同時に編集モードが有効になり、補完や拡張機能と連携して効率的に作業が行える環境が展開されます。
Emacsの導入状況について
Emacsは多機能なエディタですが、Linuxディストリビューションによってはデフォルトで導入されていない場合があります。
特にサーバー用途の最小構成インストールでは含まれないことが多いため、利用する際にはパッケージマネージャからインストールする必要があります。
sudo dnf install emacs
【出力例:】
完了しました!
依存関係の確認とパッケージ取得が実行され、完了後に emacs コマンドが利用可能になります。
共通点と大きな相違点
両者はオープンソースで開発が続けられ、世界中のユーザーやコミュニティによって支えられています。
プラグインや設定を通じて環境を自分好みに整えられる点は共通しています。
しかし思想には大きな違いがあります。Vimは「軽快なテキスト編集」に特化し、あらゆる環境で即時利用できることを重視します。
対してEmacsは「全てを統合する開発環境」を志向し、必要な機能を内包して一元的に作業できることを目指しています。
項目 | Vim | Emacs |
---|---|---|
基本思想 | 軽量で高速な編集 | Lispベースの統合環境 |
起動速度 | 非常に速い | 比較的遅い |
学習コスト | モード操作の習熟が必要 | 独特なキーバインド習得が必要 |
拡張性 | vimrcやプラグインによる拡張 | Lispで高度な拡張 |
利用シーン | サーバー管理や即時編集 | 長期的な開発や統合作業 |
操作・利用シーンの比較
VimとEmacsはエディタとしての役割は同じでも、実際の操作体系や利用シーンでは大きな違いがあります。
ここでは具体的にモード操作やキーバインディング、拡張性、そしてマルチプラットフォーム対応の観点から両者を比較し、読者がどのような環境でどちらを選ぶべきかを理解できるように整理します。
モード操作・キーバインディングの違い
Vimはノーマルモード、インサートモード、ビジュアルモードといった複数のモードを切り替えて操作します。編集効率を高められる一方で、慣れるまでは戸惑いやすい仕組みです。
例えばノーマルモードで行番号を指定して移動できるため、ログや設定ファイルの編集では素早く目的の箇所に到達できます。
vim +10 /etc/hosts
【出力例:】
"etc/hosts" 12L, 234C
/etc/hosts [読み取り専用]
10行目にカーソルが移動した状態で表示されます。
これに対してEmacsはモードの切り替えではなく、CtrlやAltを組み合わせたキーバインディングで操作します。
多機能ですがコマンド数が多いため、最初は覚えるのに時間がかかります。
emacs main.txt
【出力例:】(コンソールで実行)
メインファイルの確認用テキスト
上段ウィンドウに表示されていることを確認します
行番号の有無にかかわらず内容が見分けられます
この文書は分割表示の動作確認だけに使います
以上
GNU Emacs 29.4 (build ...)
test.txt -- Fundamental mode
【出力例:】(ターミナルで実行)

起動後すぐにテキストを入力でき、ショートカットを駆使して編集を進められます。
Emacsの終了方法
Emacsを初めて使うと、終了の仕方が分からず困る方が多いです。終了するには以下の手順を覚えておくと安心です。 基本操作で終了
C-x C-c
(Ctrlを押しながらx、その後Ctrlを押しながらc) 保存確認が出た場合 終了時に変更があると、画面下に次のようなメッセージが表示されます。
【出力例:】

下部に出力される下記のメッセージが出たら、必要に応じて下記のコマンドを入力すれば終了できます。
Save file /home/user/main.txt? (y, n, !, ., q, C-r, C-f, d or C-h)
Emacs終了コマンド
- y → 保存して終了
- n → 保存せず終了
- q → 終了をキャンセル
Emacs は終了方法が直感的でないため、記事内で「終了の仕方」を覚えておかないと開いたは良いが閉じられないとなってしまいます。
拡張性と設定方法の違い
Vimは「.vimrc」ファイルを通じてキーマッピングやプラグイン設定を行い、軽快さを維持したまま必要な機能を追加できます。
例えばプラグイン管理ツールを使えば検索補助や補完機能を組み込めます。
vim -u ~/.vimrc
【出力例:】
~/.vimrc を読み込んだ状態でVimが起動し、個別設定が反映されます。
対してEmacsはLispを利用して拡張を書き込むことができ、パッケージマネージャを通じて無数の機能を追加できます。IDEのように統合した環境を作り込めるのが特徴です。
emacs --eval "(message \"Hello Emacs\")"
【出力例:】
Hello Emacs
起動時に指定したLispコードが実行され、拡張性の高さを体感できます。
マルチプラットフォームとGUI / CLI対応の差
Vimはターミナル上での利用を前提に設計されているため、LinuxやUNIXのサーバー上でシームレスに利用できます。またGVimのようなGUI版も存在し、ウィンドウ環境でも快適に操作できます。
gvim file.txt
【出力例:】
GUI版Vimが立ち上がり、マウス操作やメニューが利用可能になります。
Emacsは当初からGUI対応を重視しており、X Window SystemやWindows、macOSなど様々なプラットフォームで同じ環境を構築できます。さらにCLI版も備えており、サーバー環境でも動作します。
emacs -nw test.txt
【出力例:】
端末上でEmacsが起動し、ウィンドウ環境なしで編集が可能になります。
これらの違いを理解すれば、サーバー中心で軽快さを重視するならVim、統合環境を重視して多機能に使いたいならEmacsといった選択がしやすくなります。
実務での使い分けポイント
VimとEmacsのどちらを選ぶかは、単なる好みではなく実務の性質に直結します。プロジェクト規模やチーム体制、既存環境との兼ね合いによって効率は大きく変わります。
ここでは、導入や習熟の観点から両者の使い分けポイントを整理します。
プロジェクト規模・種類による向き不向き
小規模なシステム運用やサーバー管理では、軽量で起動が速いVimが有利です。
設定ファイルやログの編集など、短時間で素早く作業したい場面では特に役立ちます。
vim /etc/httpd/conf/httpd.conf
【出力例:】
"httpd.conf" 120L, 4560C /etc/httpd/conf/httpd.conf [読み取り専用]
設定ファイルを即座に開き、数行の修正をスムーズに行えます。
一方、アプリ開発や研究分野など中〜大規模プロジェクトではEmacsが強みを発揮します。
統合環境としての拡張性を生かし、コード編集と同じ画面でデバッグ、ドキュメント、タスク管理をまとめて進められます。
emacs main.py
【出力例:】
GNU Emacs 29.4 (build ...) main.py -- Python mode
Pythonモードが自動で適用され、開発効率を高められます。
学習コストと習熟までの時間
Vimはモード操作の理解が必須ですが、基本的な移動や編集を覚えるだけなら短期間で実用レベルに到達できます。
シンプルなコマンド体系を繰り返し練習することで、日常的な作業に即活用できます。
vimtutor
【出力例:】
Vimtutor: Vimの基本操作を学ぶためのチュートリアルが開始されます。
Emacsはショートカットが豊富で奥が深いため、全体を使いこなすには時間がかかります。ただし、一度習熟すればIDE並みの操作環境を構築できるため、長期的には大きな投資価値があります。
チームでの標準化/既存環境との親和性
チーム開発においては「環境に標準で備わっているか」が重要です。
Vimは多くのLinuxディストリビューションに標準で含まれており、サーバー上で追加設定なしに利用できる点が強みです。
vim --version
【出力例:】
VIM - Vi IMproved 8.2 (2019 Dec 12, compiled Feb 25 2025)
Emacsは標準搭載されていないケースが多く、利用する際はインストールが必要です。
そのため、チーム全体で導入する場合は事前に環境を揃えるコストを考慮する必要があります。
sudo dnf install emacs
【出力例:】
依存関係が解決され、Emacsパッケージがインストールされます。
プロジェクトの性質や環境に合わせて選択すれば、チーム全体の作業効率を大幅に高めることができます。
トラブルと対処法
どんなに便利なエディタでも、初めて利用する際にはつまずきやすいポイントがあります。
VimとEmacsは操作体系や思想が異なるため、誤解や操作ミスで思わぬストレスを感じることもあります。
ここでは代表的なトラブルとその解決策を紹介し、スムーズに使いこなすための知識をまとめます。
Vimでつまずきやすい点と解決策
Vimはモード切り替えが特徴的で、初めて触れる方が最も混乱するポイントです。特に終了方法で戸惑うことが多いです。
vim test.txt
【出力例:】
"test.txt" [新規ファイル]
この状態で `:wq` を入力すると保存して終了できます。
:wq
【出力例:】
"test.txt" 1L, 20C 書き込み完了
終了ができないときは :q! を入力すれば保存せずに終了できます。
これを知っておくだけで「閉じられない」というストレスを回避できます。 もうひとつのつまずきは、カーソル移動の慣れです。
矢印キーも使えますが、ノーマルモードでは h,j,k,l を使って移動できます。これを覚えるとマウスに頼らず効率的に編集できます。
Emacsでのよくある誤解や問題と対処
Emacsでは終了方法に戸惑う人が多いですが、詳しい手順は前述の「Emacsの特徴」の項目で触れました。
ここでは誤解しやすい点を補足します。
多くの初心者が C-c C-c を終了コマンドだと勘違いしますが、実際はモードごとに別機能が割り当てられており、終了できません。
Emacsはキーバインディングの多さに加え、終了方法が直感的でないため混乱しやすいです。
終了の正しい操作は以下の通りです。
C-x C-c
【出力例:】
Save file /home/user/test.txt? (y, n, !, ., q, C-r, C-f, d or C-h)
変更がある場合、このように保存確認が表示されます。 y を押せば保存して終了、 n を押せば保存せず終了できます。
よくある誤解は C-c C-c を終了操作だと思ってしまうことです。
実際にはモードごとに別の機能に割り当てられているため、終了できず「Emacsは閉じられない」と誤解されがちです。
このように「終了方法」と「導入の有無」を理解しておくだけで、初めてEmacsを使う際の大きな障壁を取り除けます。
この誤解を避けるだけで操作がスムーズになります。
まとめと次のステップ
ここまでVimとEmacsを比較し、それぞれの特徴や注意点を整理してきました。
どちらのエディタを選ぶにしても、単に「有名だから」という理由ではなく、自分の作業環境や目的に応じた判断が重要です。
ここで一度振り返り、さらに次の学習ステップを見据えていきましょう。
比較ポイントのおさらい
両者の特徴を整理すると、違いが明確になります。以下の表は判断の助けになる主要な比較点をまとめたものです。
比較項目 | Vim | Emacs |
---|---|---|
起動速度 | 非常に速い | やや重め |
学習曲線 | モード操作に慣れが必要 | キーバインドが独特 |
拡張性 | プラグインが豊富 | Lispで自由度が高い |
導入環境 | 多くのLinuxに標準搭載 | 導入されていない環境もある |
終了操作 | :qや:wqで直感的 | C-x C-cに慣れる必要あり |
どちらをいつ選ぶかのガイドライン
短時間でログを確認したり、SSH経由で設定ファイルを修正する場合は、ほとんどの環境に標準搭載されているVimが有利です。
一方で、長時間のコーディングや文章作成を効率化したい場合は、Emacsの拡張性が強みを発揮します。
つまり、インフラやサーバー運用寄りの作業ではVim、アプリ開発や高度なカスタマイズ環境を求める場合はEmacs、と使い分けるのが現実的です。
🟢 Vimの基礎知識シリーズは段階的に進められる構成になっており、入門から実践、応用、カスタマイズまで体系的に学べます。
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