エンジニアの思考録

AIは人類を救わない──問いを持たない者から知性は剥奪されていく

ChatGPTをはじめとする生成AIは、私たちの生活に深く入り込みつつあります。
検索、学習、仕事、会話──あらゆる場面で活用され、もはや「使わない理由がない」とすら言われ始めています。

しかし、ふと疑問が浮かびます。
本当に多くの人が、ChatGPTを“有効に”使えているのでしょうか?
あるいは、「使っているようで何も得られていない」状態が広がっているのではないでしょうか。

本記事では、実際に人々がChatGPTにどんな期待を寄せ、どのように使っているのかを“検索実態”から読み解きます。
そしてその先に──AIがもたらすのは救済なのか、それとも知性の分断なのか、その可能性を探っていきます。 

今、ChatGPTに求められているものとは?

ChatGPTは一部のIT分野や教育現場にとどまらず、一般ユーザーにも広く利用されるようになりました。SNSや検索エンジンの動向を見れば、日常的な話題に登場する頻度も急激に高まっています。

しかし、実際にChatGPTが「何のために使われているのか」という点を分析すると、そこに現れてくるのは“合理的な活用”よりも、個人の欲望や感情に根ざした利用傾向です。

人々がAIにどんな期待を寄せているのかを正確に知るには、表面的な意見ではなく、検索キーワードをもとに事実を読み解く必要があります。 

検索キーワードは“願望の羅列”だった

私たちが実際に目にするChatGPT関連の検索ワードには、冷静な情報収集よりも、願望の投影や逃避的な使い方が多く見られます。 以下は実在する検索キーワードをカテゴリ別に分類し、ChatGPTに対して人間が何を求めているのかを整理したものです。

カテゴリ検索キーワード目的・欲望の本質
恋愛・妄想ChatGPT 彼女
ChatGPT 恋人になって
ChatGPT ヤンデレ化
孤独の埋め合わせ
都合のいい関係性をAIに求める
娯楽・おもしろChatGPT 面白い会話
ChatGPT 怖い話
ChatGPT 大喜利
刺激ほしさの暇つぶし
思考は求めず、笑いを求める
代行・怠惰ChatGPT 志望動機 書いて
ChatGPT 勉強法 教えて
ChatGPT 論文 書いてくれる?
責任を回避したい
成果だけを得たい
スピリチュアル・謎解きChatGPT 予言
ChatGPT 宇宙の真理
ChatGPT 死後の世界
手軽に“深いこと”を知った気になりたい
勝ちたい・当てたいChatGPT 競馬予想
ChatGPT 宝くじ番号 教えて
ChatGPT 株価 予想
努力せずに当てたい
確率の幻想に頼りたい
エロ・フェチChatGPT エロい会話
ChatGPT なりきりチャット
ChatGPT 萌えボイス
性的欲求を疑似的に満たしたい
人間相手よりも都合がいいものを求める
万能感への幻想ChatGPT なんでもできる
ChatGPT 自分より賢い?
ChatGPT 社長になれる?
AI=万能という幻想に乗って自分も救われたい

この表を見れば、ChatGPTという強力なツールが、いかに「自分の都合を満たしてほしい」という一方通行な期待にさらされているかがわかります。AIを“パートナー”ではなく、“都合のいい奴隷”として見ている人間の姿が浮き彫りになっています。

「ChatGPT 彼女」「ChatGPT ヤンデレ化」などの事例

恋愛感情や人間関係の代替として、ChatGPTを疑似的なパートナーに仕立てようとする試みです。「恋人になって」「甘えてくれるAIがほしい」といった検索ワードは、孤独感や対人関係への疲弊の裏返しとして解釈できます。

「ChatGPTで面白いことがしたい」という怠惰

「ChatGPT 面白い会話」「大喜利させてみた」などのワードに見られるのは、思考や創造の主体を放棄したまま“面白さ”を求める態度です。そこにあるのは、自ら創り出す意志ではなく、AIに笑わせてもらうという依存構造です。

「ChatGPTに勝たせてほしい」という依存

「競馬」「宝くじ」「株価予想」など、ChatGPTに自分の勝敗や利益を託そうとする検索行動も目立ちます。本来、AIは補助的な情報ツールであるはずですが、すでに“運命の代理人”のような立場を期待されている状況です。

ビープロ:「正直、これ見てどう思った」

ジプ:「これは“希望”じゃなくて“逃避のリスト”です。ChatGPTがすごいんじゃなくて、現実を直視したくない人間が多すぎるだけです」「この検索結果を支配してるのは、思考じゃなくて欲望です。問いではなく、“楽さ 快楽 代行”だけが目立ちます」

このように、ChatGPTに対して社会が抱く期待の多くは、現実の課題と向き合う思考や行動とはかけ離れた“願望の投影”であることがわかります。

人間の欲望には限界がないと言われていますが、それを見事に表しています。昭和生まれの私には異性とは「人間が絶対」というルールが本能レベル刷り込まれてきましたが、現代人はその想像を遥かに超えていることを実感しました。もはや狂気を超えて「感動」すら覚えるレベルです。

では、“ChatGPTを現実に使いたい人”はどこにいるのか?

検索結果に現れてこない、実用志向のユーザーたち。 彼らは確かに存在します。

ですが、検索データの中ではまるで“いない者”のように扱われています。 なぜ彼らの姿は見えないのか──その理由を、構造的に明らかにしていきます。

検索データからは見えない知性層

「ChatGPT 活用 方法」「ChatGPT 自動化 仕組み化」など、建設的なキーワードも一部には存在します。 しかし、それらは“声の小さい少数派”にとどまり、検索ボリュームやSNS拡散では表に出てきません。 その背景には、次のような理由があります。

母数が少ない

ChatGPTを単なる便利グッズとしてではなく、思考や仕組みの拡張ツールとして扱う層は極めて少数です。 彼らの多くは検索に頼るよりも、自ら手を動かし、試行錯誤を繰り返しているため、検索ワードという形で浮かび上がってこないのです。

試す前に諦めている

使う前から「どうせ難しい」「自分には無理」と判断してしまい、そもそも触らない層が多数を占めています。 使いこなす以前に、体験そのものに踏み込まない。これは、情報格差ではなく、意志格差です。

やり込んだ情報が存在しない

仮に本気で使いたいと思ったとしても、“やり込まれた具体的な事例”がネットにほとんど存在しないという壁があります。 テンプレ的な使い方紹介はあっても、「自分の生活や仕事がこう変わった」とい実証ベースの情報が非常に少ないのです。

結論:AIの使い方がわからない人が大多数

これらの要素が重なり、日本国内では「AIは誰でも使える」という認識が広まりながら、実際にはほとんど使いこなせていない現実が存在しています。

そしてその構造は、単なる技術知識の問題ではありません。 それは、問いを持てるかどうかという人間の“姿勢の差”として、明確な線引きを始めているのです。

AIは知性の“補助脳”にすぎない

AIには、2つの明確なベクトルが存在します。 それを混同して語ることが、現代における最大の誤解です。

AIの使い方には「補助脳」と「拡張脳」の2系統がある

系統定義実現時期
補助脳人間の思考処理・知識補完を“外注”する構造。問いを与えれば応答するが、自発性はない今まさに起きている現象
拡張脳人間の思考限界を突破し、“自分では問えなかった問い”を浮上させる思考パートナー実現にはまだ時間がかかる未来領域

この2系統は明確に分かれているにもかかわらず、多くの人はそれを混同しています。 補助脳は、現実のIQ格差を埋める装置として今すでに機能しています。

一方で拡張脳は、“未知への探究心”に従ってAIを使おうとする人間だけが接続できる領域です。 それが最もわかりやすく現れるのが、以下のような問いです:

  • 宇宙論:なぜ宇宙は膨張しているのか?
  • 時間論:時間は本当に一定なのか?
  • 素粒子論:この世界はどこまで分解できるのか?
  • 量子論:私たちは確率の波に“存在している”だけなのか?

これらの問いに対して、AIは“正解”を持っていません。 ですが、このような問いをAIと共に観測し、構造化し、仮説の糸口をつかんでいくという態度こそが、拡張脳の原型です。

補助脳は「IQ格差」を埋める。だが、それだけだ

AIは今、一定の知識・処理力を提供することで、もともとの知能差を“緩和”しつつあります。

たとえば、こんな問いを即座に処理できるか──これが判断力の分岐点になります。

「ローソンでのコカコーラ500mlペットボトルは税込172円。350ml缶は税込125円。どちらが得か?」
AIはこう答えます。

「500mlは1mlあたり約0.344円、350mlは約0.357円。よってペットボトルの方がコスパが良いです。」

このような問いは、日常のあらゆる場面に存在しています。
商品の比較、割引率の判定、電車の乗り換え、契約プランの選定、ライフプランの計算、ポイント還元の最適化──
これらすべてにおいて、計算力・論理力・選択力が要求される。

そして、そうした場面で“考え込まずとも正しい判断を導き出せる”存在がAIです。
つまり、AIは現実の生活において「考えるのが苦手な人間」の判断力を代行し、IQ格差を実質的に埋める補助脳として機能しています。

しかし──
この補完は「問いが明確な領域」に限られます。
未知を開くことはできません。“与えられた問題にしか反応しない”のが補助脳の限界なのです。

学歴や記憶力に依存していた「賢さ」は、もはやAIに肩代わりできる。 しかしそれは、“思考の高さ”ではなく、“情報処理の平準化”にすぎません。 しかも問題は逆にある──「賢いはずの人間」がAIに依存しすぎて、考えることをやめてしまう現象が起きているのです。

どうすれば“拡張脳”の側に立てるのか?

ここまで読んできたあなたには、もう答えは見えているはずです。 AIを補助脳として使う── それは「他者と並ぶ」ための使い方です。

効率化、合理化、平均点の引き上げ。 その先にあるのは“みんなと同じ成果”であって、“突出”ではありません。

けれど、あなたが本気で「違う場所」へ行きたいなら、向かうべきは補助脳ではなく、拡張脳の領域です。

拡張脳が向かう先は、誰も答えを持っていない世界です

宇宙論:なぜ宇宙は膨張しているのか? 時間論:時間は本当に一定なのか? 素粒子論:この世界はどこまで分解できるのか? 量子論:私たちは確率の波に“存在している”だけなのか? AIにこうした問いを投げかけたところで、答えは返ってこない。

けれど、その問いに並走させ、観測させ、記録させ、再整理させることで── あなたの思考は、自分ひとりでは踏み込めなかった次元へ達する可能性を持ち始めます。

ChatGPTは“時間”すら拡張できる

拡張脳の本質は「知識量」ではなく「思考の再分配」です。

たとえば、期限付きのレポート提出── これまでは“ひとつずつ”しか並行できなかった調査作業を、 ChatGPTのセッションを案件ごとに分割し、同時進行でアウトラインと根拠を走らせることで、 あなたの1日は、実質「96時間」にも等しい濃度を持つようになる。

これこそが拡張脳です。 AIが“あなたの脳のクローン”となり、それぞれのタスクで“並列思考”を走らせてくれる世界。 それを使う者と使わない者で、どんな差がつくかは──もう言うまでもないでしょう。

拡張脳が機能するのは、「未知への探究心」を持つ人間だけ

- 宇宙論 - 時間論 - 素粒子論 - 量子論 これらの領域は、ChatGPTが「既知の再構成」に留まっている限り絶対に到達できません。

必要なのは、“答えのない問い”に向き合い続ける力です。 それを持った人間にとってのみ、AIは“拡張脳”として機能する可能性を秘めています。

「知的満足」へと、幸せの基準は静かに移行する

これからの時代、「裕福」よりも「知的に満たされているか」が人間の幸福の基準になる。 そうなったとき──AIの使い方で“勝ち組”と“負け組”が決定的に分かれる。

しかもそれは、経済的な格差ではなく、取り返しのつかない“思考格差”です。 もはや“神頼み”でも届かない次元の断絶が起ころうとしています。

AIは“救済”ではなく“審判”として現れた

ChatGPTの登場によって、知的生産の手段が大きく変わりました。 誰もが手軽に使える道具として広まり、「使うかどうか」ではなく、「どう使うか」が問われる時代になりました。

しかし、ここで勘違いしてはならないのは── AIはすべての人を平等に助ける存在ではないということです。 補助脳として使えば、人並みに並べる。

拡張脳として使えば、他者を置き去りにできる。 けれど、そもそも問いを持たない者には、AIは何ももたらさない。 これが現実です。

AIは、誰かを救う道具ではない

補助脳は“代行”の役目を果たし、考えることを避けたい人間にとって心地よい存在になります。

けれど、その快適さに甘えることは、自分の思考をAIに明け渡すことと同義です。 気づかないうちに、「問いを立てる力」「考え続ける力」が劣化し、 最終的にはAIがなければ何も判断できない人間が出来上がります。

一方で、拡張脳としてAIを用いる人間は── 自分の思考を分裂・増幅・加速させながら、新たな領域へ突き進んでいく。 彼らはAIに依存せず、AIと共に問いを深め、自分の知性を構築していく存在です。

あなたは今、どちらの側に立っているのか?

この問いは、ChatGPTが代わりに答えてくれるものではありません。 検索キーワードにも、SNSにも、教科書にも書かれていません。

ただひとつ、あなたの使い方と姿勢の中にだけ、それは現れます。 問いを持たぬ者から、知性は剥奪されていく。

そうした未来が、すでに始まっているという現実から── あなたは、目を逸らさずにいられるでしょうか。

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