
インターネットとローカルネットワークを安全かつ効率的につなぐために、NAT(Network Address Translation)という仕組みが欠かせません。
限られたIPv4アドレス空間の中で、家庭や企業が複数の機器を同時にインターネットへ接続することを可能にしているのがこの技術です。
NATはプライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスの変換を行い、直接外部と通信できないローカル端末を仲介します。
本記事では、NATの基本原理、プライベートIPの役割、そして実務での活用例や設計上の注意点までを丁寧に解説していきます。
ネットワーク設計やトラブルシューティングに携わるすべての方にとって、理解しておきたい必須知識です。
NATの基本概念を理解する
NAT(Network Address Translation)は、ネットワーク機器が内部のプライベートIPアドレスを外部のグローバルIPアドレスに変換する仕組みです。
主にIPv4環境におけるアドレス枯渇への対処策として普及し、今や家庭・企業問わず標準的に用いられています。
このセクションでは、NATがなぜ必要とされるのか、その仕組みはどう動作するのかについて、順を追って解説します。
NATの必要性と背景
NATは、インターネットの普及とともに直面した「IPv4アドレスの枯渇」問題に対する実用的な解決策として登場しました。
グローバルIPアドレスの有限性を補うために、プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスの間をつなぐ技術として、今やネットワーク構成に不可欠な存在となっています。
この章では、なぜNATが必要なのか、その背景と導入に至った経緯を解説します。
IPv4アドレス枯渇への対応
IPアドレスには限りがあります。特にIPv4アドレスは32ビットで構成されており、全体で約43億個に制限されています。インターネット利用の急増により、このアドレス資源はすぐに枯渇してしまいました。
そこで登場したのがNATという技術です。NATを使うことで、1つのグローバルIPアドレスを複数の機器で共有できるようになり、アドレスの節約が可能になりました。
プライベートIPとグローバルIPの役割分担
NATが実現可能なのは、IPアドレスが「プライベートIP」と「グローバルIP」に分けられているからです。プライベートIPは内部ネットワーク専用のアドレスで、以下のような範囲が定義されています。
クラス | プライベートIP範囲 | CIDR表記 |
---|---|---|
A | 10.0.0.0 - 10.255.255.255 | 10.0.0.0/8 |
B | 172.16.0.0 - 172.31.255.255 | 172.16.0.0/12 |
C | 192.168.0.0 - 192.168.255.255 | 192.168.0.0/16 |
このようなプライベートアドレスはインターネット上では直接利用できません。ルータなどのNAT機能が、通信時にプライベートIPをグローバルIPへ変換し、外部とのやり取りを可能にします。
企業・家庭内ネットワークでの適用例
企業ネットワークでは、数百〜数千の端末が1つまたは複数のグローバルIPを使って外部と通信します。
家庭内でも、ルータを通してスマートフォンやパソコン、スマート家電が1つのインターネット回線を共有しています。このような構成を可能にしているのがNATの恩恵です。
NATの動作原理
NATは単なるアドレス変換ではなく、ネットワーク通信の中継点として非常に高度な処理を行っています。

送信元IPアドレスの変換やポート番号の付け替え、さらには通信ごとの状態を保持するためのNATテーブル管理まで、複数の要素が連携して動作しています。
この章では、NATがどのようにパケットを変換・管理しているのか、その仕組みを具体的に見ていきます。
送信元IPの書き換え処理
NATの基本的な機能は、パケットの送信元IPアドレスをグローバルIPに置き換えることです。
これにより、外部から見るとすべての通信が1つのIPから発信されているように見えます。以下はLinux環境でNATを設定する例です。
iptables -t nat -A POSTROUTING -o eth0 -j MASQUERADE
このコマンドは、eth0インターフェースから出るパケットの送信元IPを自動的に変換(マスカレード)する設定です。
ポート番号の再利用による多重化
NATは同時に複数の機器が通信できるように、ポート番号も変換して管理します。
例えば、内部で異なる端末がそれぞれTCP 80番ポートで通信を行っていても、NATは外部に対して別のポート番号を割り当て、同一のグローバルIPアドレスで並行通信を成立させます。
これをNAPT(Network Address Port Translation)とも呼び、現在広く使用されているNATの実装方式の一つです。
NATテーブルの役割と保持時間
NATは、どの内部端末からどの外部宛の通信が発生しているかを「NATテーブル」に記録して管理します。
このテーブルには、送信元IPとポート、宛先IPとポート、プロトコルなどの情報が一時的に保存されます。
この情報は通信が完了するまで保持されますが、一定時間応答がないと自動的に削除される仕組みになっています。
例えば、UDP通信はステートレスであるため、保持時間が比較的短めに設定されていることが多いです。
プライベートIPアドレスの定義と範囲
プライベートIPアドレスは、インターネットに直接接続されないローカルネットワーク内で利用される特別なIPアドレスです。
セキュリティやネットワーク分離の観点からも重要な役割を果たしています。
このセクションでは、プライベートIPの定義と範囲、そして実際のネットワーク設計での活用方法について解説します。
プライベートIPアドレスの定義
プライベートIPアドレスとは、社内ネットワークや家庭内LANなど、閉じられたネットワーク内で使用されるIPアドレスのことを指します。
インターネットと直接通信することはできませんが、内部通信やネットワーク分離において重要な役割を担っています。
このセクションでは、プライベートIPの定義や分類、そしてグローバルIPアドレスとの明確な違いについて解説します。
RFC1918による予約範囲
RFC1918では、3つのプライベートアドレスブロックが予約されています。
これらはネットワーク内専用で使用され、インターネットにはルーティングされません。
各クラス別の範囲(A/B/C)と使い分け
プライベートIPアドレスはクラスA・B・Cに分かれており、それぞれの範囲は使用目的に応じて選ばれます。
一般に、小規模ネットワークではクラスC、中規模ではクラスB、大規模ネットワークではクラスAが使われることが多いです。
グローバルIPアドレスとの違い
グローバルIPアドレスは、インターネット上で一意に識別される必要があります。一方、プライベートIPは同一アドレスが複数ネットワークで重複していても問題ありません。この違いがNATの必要性にもつながります。
実務でのプライベートIPの使い方
プライベートIPアドレスは、社内ネットワークの構築やセキュリティ設計において欠かせない存在です。
単にIPを割り振るだけでなく、VLANやルーティングの設計と連携させることで、柔軟かつ効率的なネットワーク構成が実現できます。

このセクションでは、実務でよく使われるプライベートIPの設計例や応用シーンについて具体的に見ていきます。
企業内LAN設計の例
企業ネットワークでは、部署や部門ごとにプライベートIPアドレスをセグメント分けして運用することが一般的です。
これによりネットワークの管理やトラブル対応が容易になります。
VLANと組み合わせたアドレス設計
VLANとプライベートIPアドレスを組み合わせることで、論理的なネットワーク分離が可能になります。
セキュリティの向上と柔軟な設計が両立できます。
ISP提供のCPEとプライベートIPの関係
多くのISPが提供するCPE(Customer Premises Equipment)は、内部ネットワークにプライベートIPを割り当て、NATを用いてインターネット接続を実現しています。
これが家庭内LANの基本構成となっています。
NATの種類とユースケース
NAT(Network Address Translation)は、ネットワークアドレスの変換を行うことで、インターネットとの通信を可能にする仕組みです。
一口にNATと言っても、その方式はいくつかに分類されており、それぞれ用途や構成が異なります。

このセクションでは、代表的な3種類のNATについて、それぞれの特徴と使用シーンを詳しく解説します。
スタティックNAT(静的変換)
スタティックNAT(静的変換)は、プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスを1対1で固定的に変換する方式です。
ネットワーク内の特定のサーバや機器をインターネット経由で常に同じグローバルIPアドレスで公開したい場合に使われます。
設定がシンプルでわかりやすく、通信の可視性も高いため、外部公開用途では非常に有効な手段です。
1対1対応でサーバ公開に有効
スタティックNATは、プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスを1対1で固定的に変換する方式です。
特定の内部サーバ(例えばWebサーバやメールサーバ)を外部に公開する際によく用いられます。
この方式では、外部からの通信を常に特定の内部IPに転送できるため、安定したサービス提供が可能です。
ただし、グローバルIPが1つ必要となるため、大量のサーバを公開する場合は非効率になります。
設定例とセキュリティ上の注意点
スタティックNATを使用するには、ルータに明示的なアドレス変換ルールを設定します。例として、Cisco IOSルータの設定では以下のようになります。
ip nat inside source static 192.168.1.10 203.0.113.10
この設定により、内部アドレス192.168.1.10が、外部からは203.0.113.10として見えるようになります。
ただし、この方式はポート単位の制御が弱いため、外部からの不要なアクセスにもさらされやすく、セキュリティ対策としてファイアウォールとの併用が強く推奨されます。
ダイナミックNAT(動的変換)
ダイナミックNAT(動的変換)は、複数のプライベートIPアドレスに対して、グローバルIPアドレスのプールから動的に変換を行う方式です。
通信のたびに利用可能なグローバルIPが割り当てられるため、アドレス資源の効率的な活用が可能になります。
一方で、通信ごとにIPが変わるため、外部からの恒常的なアクセスには不向きです。
短時間のインターネットアクセスや非公開端末での利用に適しています。
アドレスプールから動的割当
ダイナミックNATは、複数のプライベートIPに対して、あらかじめ用意されたグローバルIPのプールから動的に割り当てて変換を行う方式です。
通信が終了すれば、そのグローバルIPは解放され、別の端末に再利用されます。
これは、短時間だけインターネットに接続する端末が多い企業ネットワークなどに向いており、グローバルIPを節約できます。
短期間のインターネット利用向け
たとえば、以下のような設定でアドレスプールを定義し、NATに割り当てます。
ip nat pool globalpool 203.0.113.1 203.0.113.10 netmask 255.255.255.0
ip nat inside source list 10 pool globalpool
この設定では、アクセスリスト10で定義された端末に対し、203.0.113.1〜10までのアドレスを動的に割り当てます。 ただし、グローバルIPプールの数が少ないと「枯渇」する可能性があるため、同時接続数を制御する工夫が求められます。
NAPT(IPマスカレード)
NAPT(Network Address Port Translation)、通称IPマスカレードは、最も広く使われているNATの一形態です。
1つのグローバルIPアドレスを多数のプライベートIPアドレスで共有できるようにし、各通信セッションをポート番号によって識別します。
家庭のルーターや企業のインターネットゲートウェイにおいて、複数の端末が同時にインターネットへアクセスする仕組みとして不可欠な技術です。
限られたグローバルIP資源を最大限に活用するための現代的な解決策として機能しています。
1つのグローバルIPで多数の端末を接続
NAPT(Network Address Port Translation)は、一般的に「IPマスカレード」とも呼ばれ、家庭用ルータなどで最も普及しているNAT方式です。
1つのグローバルIPアドレスに対して、複数のプライベートIPアドレスをポート番号で多重化して接続させるのが特徴です。
TCP/UDPポート番号でセッションを識別
NAPTでは、同時に複数端末がインターネットにアクセスしても、送信元のポート番号を使って個別のセッションを識別します。
これにより、実質的に「1グローバルIP=多数端末」の接続を可能にします。 以下はLinuxにおけるNAPT設定例(iptables)の一部です。
iptables -t nat -A POSTROUTING -o eth0 -j MASQUERADE
この設定により、eth0インターフェースを通じて外部に出る全トラフィックは、ルータのグローバルIPに変換され、動的なポート割り当てにより多重通信が可能になります。
最も一般的なNAT運用例
NAPTは、家庭用インターネット回線だけでなく、ISPの設備や小規模オフィスなどでも広く使われています。
理由は明確で、コスト効率が非常に高く、1つのIPで多くの端末が同時にインターネットを利用できるためです。
ただし、NAT越えが必要な一部のアプリケーション(VoIPやP2P)ではトラブルになる場合もあり、UPnPやポート開放の対応が必要になることもあります。
NAT運用時の注意点と制約
NATはプライベートIPとグローバルIPを効率的に使い分けるための強力な技術ですが、万能ではありません。
特に実運用の現場では、通信の確立やログの管理、さらにはセキュリティ監視の面でさまざまな課題が浮き彫りになります。
このセクションでは、NATを導入・運用する際に注意すべき代表的な制約について詳しく解説します。
セッションの確立と双方向通信の制約
NAT環境では、内部ネットワークから外部へアクセスする通信は比較的容易ですが、逆方向となる「外部からの着信」は技術的制約が生じやすくなります。
外部からの着信を許可するにはポート開放が必要
通常、NAT機器は内部端末から発生した通信に対してのみ、戻りの通信を通過させる仕組みになっています。
したがって、外部から特定の内部ホストへ通信させたい場合、明示的に「ポート開放(ポートフォワーディング)」の設定が必要です。
これはセキュリティリスクとトレードオフの関係にあり、慎重な設計と監視が不可欠です。
一部のP2PアプリやVoIPで問題が起きやすい
SkypeやZoom、BitTorrentなどのP2Pアプリケーションでは、クライアント同士が直接通信するため、NAT環境でのセッション確立が困難になるケースがあります。
また、SIPなどを使用したVoIP通信も、NAT環境下では音声が片方向しか聞こえないなどの問題が報告されています。これらを回避するために、STUNやTURNといった補完プロトコルが用いられます。
ログ管理とトラブルシュートの難しさ
NATが導入されている環境では、すべての通信セッションが変換処理を経由するため、従来のIPベースでのログ管理やトラブルシュートが難しくなります。
NATテーブルの追跡とログ保持の重要性
NATでは、内部IPアドレスとポート番号の対応関係を記録した「NATテーブル」が鍵となります。
このテーブルの内容がなければ、どの通信がどの端末から発生したものかを特定できません。
したがって、監査や調査の観点から、NATテーブルに基づいた通信ログの保持が求められます。
セキュリティ監視への影響
ファイアウォールやIDS/IPS(侵入検知・防御システム)では、通常IPアドレス単位でアクセスを識別・制御します。
しかし、NATによって多くの内部端末が1つのグローバルIPに集約されている場合、通信の発信元が特定しにくくなります。
そのため、正確なアクティビティの把握や不審な挙動の検出が困難になることがあります。
IPv6時代のNATの役割
IPv6は理論上、膨大な数のIPアドレスを割り当て可能であり、従来のNATのようなIP変換が不要になるとされています。
しかしながら、現実のインフラ環境では依然としてNAT的な処理が求められるケースも存在します。
IPv6ではNATが不要とされる理由
IPv6アドレスは128ビットの構造を持ち、実質的に地球上のあらゆる機器に一意なIPアドレスを割り当てることが可能です。
そのため、IPv4のようにアドレスを節約する必要がなく、NATなしで直接的なエンドツーエンド通信が推奨されます。
これはネットワークの透明性とセキュリティ向上につながります。
それでもIPv6-NATが必要な場面
一方で、企業やデータセンターにおいては、セキュリティポリシーやアドレス設計の統一性のために、IPv6においてもNAT66(IPv6-to-IPv6 NAT)を導入する例があります。
たとえば、マルチテナント環境やVPNトンネル内でのアドレス変換がこれに該当します。
完全なエンドツーエンドが実現できない事情を考慮し、柔軟な設計と運用が求められます。
NATとファイアウォールの違いと連携
NATとファイアウォールはどちらもネットワークの境界に配置される技術であり、見た目は似ていますが、目的と動作の根本は大きく異なります。
このセクションでは両者の明確な違いと、現場で求められる連携構成について解説します。
NATとファイアウォールの役割の違い
ここでは、NATとファイアウォールがそれぞれ担う役割の本質的な違いについて整理していきます。
NATは変換、ファイアウォールは制御
NAT(Network Address Translation)は、IPアドレスおよびポート番号の変換処理を担います。
これは、プライベートIPアドレスを使うローカルネットワークと、グローバルIPアドレスを使うインターネットとの橋渡しをする目的があります。
一方、ファイアウォールは「制御」が役割です。
特定の通信を許可するか遮断するかをポリシーベースで判断し、セキュリティレベルを維持するための仕組みです。NATは変換、ファイアウォールは許可・拒否と覚えると明快です。
ステートフルインスペクションとの関係
ファイアウォールの中でも、近年の主流は「ステートフルインスペクション型」です。

これは通信の状態(ステート)を記録し、初期の接続要求(SYN)だけでなく、その後の応答(ACKなど)も含めて一貫して監視する仕組みです。
ステートフルインスペクションで使用される SYN/ACK などのフラグは、TCPの「3ウェイハンドシェイク」の仕組みを理解することでより明確になります。フラグの意味や通信の流れについて詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
▶ ポート番号とトランスポート層の基本: TCP/UDPの使い分けと通信制御
NATとステートフルファイアウォールは内部的に似た処理を行う場面があります。たとえば、どちらも接続状態を追跡するためのテーブル(NATテーブルやセッションテーブル)を使用します。
しかし、目的はあくまで異なり、NATは変換処理、ファイアウォールはアクセス制御という棲み分けを意識することが重要です。
実践的な連携構成の例
NATとファイアウォールがどのように連携してネットワークを構成するかについて、現実的な例をもとに紹介します。
SOHOルータでの基本的な構成例
一般的な家庭や小規模オフィス(SOHO)で使われるルータには、NAT機能とファイアウォール機能が統合されています。
NATはISPから提供された1つのグローバルIPを使って、内部の複数端末をインターネットに接続可能にします。
同時に、ファイアウォール機能が外部からの不要なアクセスをブロックし、セキュリティを保っています。
たとえば、家庭用Wi-Fiルータにおいて、ポートフォワーディングを手動で設定しない限り、外部から直接PCへアクセスすることはできません。
これはNATとファイアウォールが連携している典型的な例です。
企業ネットワークでの分離と連携設計
企業ネットワークでは、NATとファイアウォールが明確に分離された構成がよく見られます。
ルータがNAT変換を行い、その前段または後段にファイアウォールアプライアンスを設置するケースです。
このような構成では、NATがアドレス変換だけを担当し、ファイアウォールがより詳細なアクセス制御(アプリケーション層での制御やIDS/IPSとの連携)を行います。
たとえば、DMZセグメントを用意し、インターネット側と社内側で異なるポリシーを適用することで、高度なセキュリティ設計が可能になります。
また、ファイアウォールでのログ管理やレポート機能を使って、NAT変換後の通信内容を把握することで、より精密なトラフィック分析やインシデント対応も実現できます。
このように、NATとファイアウォールは単体では限界がありますが、連携させることで強力な境界防御を実現できます。
特に企業においては、両者の役割を正しく設計に落とし込むことが、安定した運用とセキュリティの確保に直結します。
まとめ
NAT(Network Address Translation)は、現代のネットワークにおいて中核を担う技術のひとつです。
IPv4アドレスの枯渇という現実的な課題に対処するために生まれ、現在ではあらゆる規模のネットワークで欠かせない存在となっています。
本記事では、NATの基本概念から、その動作原理、種類、実務での活用、制約、そしてファイアウォールとの関係まで幅広く解説してきました。
NATの本質は「変換と共有」
この小見出しでは、NATの技術的な要点とその価値について整理します。
NATの最大の特徴は、プライベートIPアドレスをグローバルIPアドレスへと変換し、限られたIPリソースを効率的に使う仕組みにあります。
単にアドレスを変換するだけでなく、NAPT(IPマスカレード)を使えば、1つのグローバルIPアドレスで多数の内部端末がインターネット通信を行えるようになります。
特に家庭用ルータや中小企業のネットワークにおいては、この機能によりコストをかけずにセキュアな環境を構築することが可能になります。
アドレスの再利用性という観点では、NATの存在がIPv4時代の延命装置として非常に有効だったことがわかります。
設計・運用時の注意点を見落とさない
この小見出しでは、実際にNATを導入・運用する際に注意すべきポイントを振り返ります。
NATは便利な一方で、セッションの制限や外部からの通信の難しさといった技術的制約も伴います。
たとえば、サーバをインターネット上に公開する場合には、スタティックNATの設定やポートフォワーディングを慎重に設計する必要があります。
また、トラブルが発生した際のログ追跡が困難になる場合も多く、セキュリティ部門との連携が不可欠です。
特にISPや大規模事業者においては、NAT変換テーブルの保持とログ管理が運用上の大きな課題となります。
IPv6時代でも残るNATの役割
この小見出しでは、IPv6の登場によりNATが不要になるとされてきた議論について整理します。
IPv6ではアドレス空間が膨大に確保されており、基本的にはグローバルアドレスを各端末に直接割り当てるため、NATのような変換は必要ないとされてきました。
しかし現実には、IPv6でも一部のシステムではセキュリティやセグメンテーションの観点からNAT66(IPv6用NAT)が検討されるケースもあります。
さらに、現時点で多くのシステムやアプリケーションはIPv4ベースで設計されており、完全なIPv6移行にはまだ時間がかかります。
このため、今後もNATの役割は一定期間残り続けると見ておくべきです。
今後のネットワーク設計に活かすために
最後に、これからのネットワーク構築や運用にNATの知識をどう活用していくかをまとめます。
ネットワーク設計において、NATの理解は単なる知識ではなく、実際の構築・保守に直結するスキルです。
特にフリーランスエンジニアや中小企業のインフラ担当者にとっては、NATの設定・トラブルシュートが日常業務の中で重要な役割を果たします。
また、セキュリティ設計と絡めて、ファイアウォールやVPNとの連携、ログ管理、アドレス設計など、総合的な視点を持つことが今後求められます。
ネットワークは単なる技術の集まりではなく、人とサービスをつなぐ重要なインフラです。
その要となるNATを深く理解し、現場で即戦力として活かせるよう、本記事を通じて知識の土台を固めていただければ幸いです。